ラブ・ライフハック

二人で豊かで自由なラブラブ人生を送るための試行錯誤の記録、雑多な日記

【ハルの日記】ピーカン

この土地に住んで、もう半年足らずになる。

台風が接近する、ひどい雨の夕方。
紺色のワンピースのスカートが風でぼぉぼぉ揺れ、傘を持つ手に自然と力が込もった。

やがて空気が少し煙たくなり、賑やかな気配が色濃く漂う。
お祭りというのは、間違いようのない独特な空間を作り出す。

ビニールで覆われた屋台の中に、ついさっき玄関から見送ったボランティアTシャツが見えた。
このために来たのだ。
傘をぎゅっと握りしめて思う。
このために来たのだ。
彼が焼いた焼きとりを、彼の手から受け取るためだけに。

周りの人が気を利かせてくれて、ふたりで少し抜けられる時間があった。
唐揚げと、焼き鳥と、焼きそばを買って、ご厚意でいただいた缶ビールをあける。
屋根のある駐車場の中に、簡易テーブルとイスが何セットも用意され、小さなステージもあった。
地元の子どもや大人や老人が、JOYSOUNDでうたを歌っていた。
私たちもそのテーブルの一角に座った。
少しでも恋人と見つめ合える時間があって、ないと思っていた分、棚ぼただ、とうれしく思った。

数分すると、恋人はボランティアに戻らなければならなかったので、私はお祭りのスケジュールを確認し、200mほど先の公園まで歩くことにした。
手には飲み残しの缶ビールを持っている。

そこにも屋台が少しと、ささやかなステージがあった。
ステージ前の長椅子は、雨を強く弾き返していて、打楽器のようだった。
たくさん並んだ、奏者不在の打楽器たち。
ステージでは地元の芸人らしき二人がマイクを持ち、次は弾き語りライヴだと司会進行した。
私は傘をさしたまま、椅子の上にタオルをのせて、腰を下ろす。
私以外に座っているのは、仲のよさそうなおじさんが二人だけだった。

弾き語りは、中年男性ユニットにより行われた。
「バカなのね。死ぬまでひそかに愛するなんて」と、歌った。その後、男を初めて知った夜のゲイの歌なども弾いた。

それから、中年男性と青年のユニットのライヴもあり、「腹の底から愛を叫んでる」と、歌詞通りに叫んだ。
夜のライオン、という曲らしい。
他にも愛の証という曲で、「愛さないままなんていられないよ。君が生きてる限り」とか、激しい愛のうたを歌った。
愛ばっかりだ、と思った。
その後は、二組のアイドルが踊った。

台風でなければ、ミス○○というコンテストの授賞式があったようで、優勝した地元の女性が私服姿で芸人とステージに並び、「明日は晴れると思うので、ぜひ見に来てください」と手をふった。
びっくりした。手をふるんだ。
隣のおじさんたちが、「明日はピーカンだ!」とがはがは笑った。

後ろから優しく肩をたたかれて、振り返ると恋人が立っていた。
途端に重力が軽くなる。
彼の首に腕をまわしたい衝動をかろうじて抑え、ごく控えめに、指に指を絡めた。
微笑をつくり目だけで、帰ろう、という意思を伝える。
私たちのあいだで、こういう意思の疎通ができなかったことはない。
雨も風も、いつの間にか止んでいた。